新たな時代:2022年からのプライベートバンキング

第1回:日本の地政学リスクを踏まえた国外での資産管理

  ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシア、中国、北朝鮮という共産圏の核保有国に囲まれている「日本固有の地政学的リスク」について、多くの人々が改めて意識させられたのではないかと思います。

現在の日本が国際社会に置かれている「立ち位置」について、客観的に再考することが重要だといえるでしょう。

 

―「いまだ敗戦国」という現実
 大前提として、日本はいまだ国際社会の中で「第2次世界大戦の敗戦国」であり、アメリカの軍事的・政治的施策の支配下にあるという現実があります。この「敗戦国」という概念を客観的・第三者的な事実として理解することは、実は富裕層や資産家が計画を考えるうえでベースにしなければならないポイントです。

戦後の日本経済は繁栄し、特に対外純資産は357兆円もの膨大な額を保有しているといわれています。しかしこれは「巨額な資産を国外に持っている」という帳簿上の数字に過ぎず、国際紛争の勃発やデフォルトに伴って回収不能になるリスクを常に抱えています。

また、国債による日本国政府の借金は雪だるまのごとく年々増加しています。つまり、日本国政府の近くに管理される資産ほど、国家としての立場の弱さに巻き込まれるリスクが高くなるということです。

 

―非資源国かつ対外資産や国債に依存する財政構造
 また、基本的に世界の富の源泉は「地球の資源」=鉱物資源であり、貨幣や有価証券などの人間社会が作り上げて価値を保証しているものとは次元の違う、本質的な不変価値を持つものと考えられます。
日本にこれらの資源が乏しいという事実は、非常に不利な要素といえるでしょう。なお、アメリカ、英国、オーストラリアなどは、資源国かつ対外純資産は赤字という、日本とは真逆のバランス構造になっています。

 わかりやすくする目的で少々短絡的な二元的表現をあえて使っていますが、この日本という「敗戦国」かつ「非資源国」に住む資産家や富裕層が、国外の金融機関等に口座開設して資金・資産を分散させるという戦略は、地政学的に見てごく自然かつ必要であると考えられます。

 そのうえで、資産保全の場所として「官軍」の国がよいのか政治的な中立国がよいのかは、別途検討していけばよいでしょう。この大局を押さえずに議論し計画してしまうと、木を見て森を見ず、ということになりかねません。まずは、このような大局観を持ったうえで、資産管理について検討していきましょう。
 

天災という第三のジャパンリスク
 上記2つの観点に加えて、日本は災害大国でもあることを忘れてはいけません。日本列島は地震が多発するプレートの淵上に存在していることから、地震・火山の噴火のリスクを想定する必要があります。

大正の関東大震災をさかのぼれば、江戸の浮世絵師・葛飾北斎の作品にも宝永大震災や宝永大噴火が描かれ、歴史的に見ても不可避のリスクです。もっとも、地震だけであれば、現在の日本の防災技術で復旧は可能です。

しかし、国内に33基の原発を抱えている現代では、地震と津波による放射能漏洩の問題が付きまといます。また、大噴火の場合には、火山灰浮遊による呼吸器関連の人的被害、機械類のエンジン稼働不能、降雨による電線漏電などの甚大な被害が起こります。いずれの場合にも、電源喪失からから経済活動が停止する可能性も十分考えられます。

 昨今は、国内において不動産賃貸業、管理業を運営する読者も増えていると思います。都内では耐震技術を備えたタワーマンションがすでに600棟を超えましたが、技術への過信・過度はリスクの入れ子構造をもたらしているのかもしれません。

  物件を保有している地域にもよりますが、全ての資産を国内に集中して保有するよりも、日本国外に一定規模の資産を保有して、リスクの分散を図るべきと考えられます。