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第4回:日本の富裕層が海外のプライベートバンクを利用するデメリット

 第3回では、海外プライベートバンクを利用するメリットについてお伝えしましたが、当然ながら海外ならではのリスクや注意すべき点もあります。

今回は、海外プライベートバンクを利用する際にデメリットになりうる点を解説していきます。

 

 ―英語による契約のリスクと海外における署名の強固な有効性

 海外の金融機関やプライベートバンクを利用する上で、気を付けなければならないのは「使用される言語」です。日本国外の金融機関やプライベートバンクを利用するわけですから、当然外国語がコミュニケーションのベースとなります。多くは、国外顧客に対して英語を採用しています。

書類においては、その金融機関やプライベートバンクが定めた公式言語で記載されたものが正式となります。日本語などの翻訳が付いていたとしても、あくまで参考であり、内容に齟齬があれば、公式言語のオリジナル書類が優先されます。

また、日本と異なるのが、どんなに詐欺的なプロセスであっても、書類に署名をすると、内容の理解に関係なく、書かれている契約内容が100%有効となる点です。契約行為は、双方が納得の上で行われたものであり、あくまでも自己責任が原則です。「騙された」「理解していなかった」といった理由は一切認められません。署名は顧客がその書類を受け入れたことの証明であり、金融機関やプライベートバンクには基本的に責任はありません。

英語が得意でなくても、残高証明書等や簡単な書類は、慣れればある程度理解することはできるでしょうが、契約関連の書類に関しては、たとえ慣れていても理解は難しいものです。やはり信頼のできる日本人担当者や専門家が必須になります。

 

    ―詐欺や流用、怠慢、任務不履行などのトラブル

 最大の懸念点は、詐欺や資金・資産の流用、業務上の怠慢、任務不履行といったトラブルが発生したケースです。普段から、スムーズに物事が運んでいれば気づきませんが、いったんこれらのトラブルに巻き込まれると、対処は想像以上に難航します。国際金融において信用のない国のプライベートバンクや金融機関には要注意です。

「詐欺まがい」のトラブルばかりとは限りません。担当者の善管義務違反、作為・不作為による過失なども含まれてきます。現状は不明ですが、過去はスイスに、日本人用の「ぼったくりレベルの料金設定」をしていたあくどいプライベートバンクもありました。

国内であれば、担当者等に直接会って話すことも比較的容易ですが、距離のある外国ですから、担当者に直接会って解決に辿り着くのは簡単でありません。

こういった問題はそこまで頻繁に起きるわけではありませんが、もし致命的な膠着状態に陥れば、現地に出向かねばならないということは理解しておく必要があります。この場合、「現地に信頼できる日本語対応可能な人間がいるか」という点が重要になってきます。

百万ドル未満の資産では、トラブルが起きた場合に「コスト負け」してしまうことから、現地の弁護士も雇えないというケースも想定しなければなりません。とくにスイスのような物価の高い国では、どれほどの弁護士費用がかかるかも認識しておく必要があります。それぞれ国の、金融機関やプライベートバンク規制・監督庁にクレームをつけたとしても、簡単に動いてもらえないということも、同様に理解しておきましょう。
 

【実例】「英語がよくわからない」を逆手に取られ
「顧客が英語をよく理解できない」という事実を逆手に取るケースもあります。銀行、銀行員、または第三者が、顧客に説明していない書類へサインさせる例が過去に起きています。例えば、口座に預けている現金、株や債券に、知らぬ間に質権が設定され、まり勝手に担保として差し入れられて、第三者によって資金が引き出されていた(融資を受けていた)例があります。

   このケースの場合は特に、表面上、口座にはすべての資産がそのままあるため、なかなか質権が設定されていたことに気付けなかったのですが、いざ現金や有価証券を動かそうとした際に、時間がかかったり今までなかった手続きを踏んだりといったことから違和感を覚え、改めて担当者を問い詰めた結果、質権設定が発覚しました。

 

 ―日本国内での「納税」に伴う煩雑さ

 海外の金融機関やプライベートバンクの収益は、日本や現地で申告をして納税する必要があります。
香港、スイス、シンガポールの金融機関やプライベートバンクは、現地での税金はほぼかかりませんが、代わりに日本で所得を申告します。通常、ベースの書類は英語なので、ある程度英語がわかる税理士に頼む、もしくは、自身で日本語の書類を用意することになります。

 アメリカにおいてもほぼ現地での税金はかかりませんが、数年ごとに非居住者であることを申請しておかなければなりません。これを怠ると、相当の額が源泉徴収されてしまい、取り戻すために一苦労する事になります。また一部の収益(株の配当等)には源泉徴収がされるので、こちらも要注意です。

 さらに、預けている国を問わず、日本国内で申告するためには外国有価証券の売買時に毎回為替の評価等が必要となるため、膨大かつ複雑な計算をして所得を算出しなければならないケースもあります。円以外の外国通貨建ての有価証券を売買した場合は、どの国でも同様の扱いとなりますので留意して下さい。

  共通報告基準(CRS)により、口座を持っている国から毎年自動的に口座の情報が日本に送付されてきます。その結果として目立ってしまい、税務当局の目に留まる、という可能性もデメリットとして上げられるでしょう(因みに先進国では唯一、米国はこのシステムには入っていません)。
 

―相続発生時の対策を怠ると資産没収の可能性がある

  例えば口座に対して指示を出す権限を持つ人が万が一死亡、または署名不能になってしまった場合に備え、当初から事前対策をしておく必要があります。

多くの国では、相続が発生しそうな事象が金融機関やプライベートバンクに認識されると、相続協議中の状態になり、資産を凍結されてしまうことになります。そうなると、弁護士を雇って裁判所に判断を仰がない限り、資産を没収されてしまう可能性も出てきます。

これを避けるためには、事前に色々な対策を講じておく必要があります。対策を怠ると、時間がかかるだけでなく、弁護士費用など想定外のコストが発生します。